法人と個人の違いⅢ 赤字の繰り越し(青色申告の場合)・税率・交際費

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前回に引き続きまして、起業の場合の法人と個人の違いについてです。

前回までは、こちら。

法人と個人の違いⅠ 設立・開業方法
法人と個人の違いⅡ 役員報酬・家族への給与 法人化=節税になる?

今回のテーマはこちらです。

■赤字の繰り越し(青色申告の場合)

青色申告のメリットの1つです。
前年が赤字、今年が黒字の場合に、今年の決算で、黒字から前年の赤字を差し引くことができる、という制度で「青色欠損金の繰越控除」といいます。
設立当初は赤字となることも多いため、この赤字の繰り越しというメリットは大きいですし、有難い制度です。

例えば説例ですが、設立初年度において赤字が300万円生じたとします。
翌期に200万円の黒字出ても、繰り越された赤字300万円のうち200万円と相殺できるため、所得金額は基本的にゼロ。また、残りの赤字100万円は、さらに繰り越せます。
翌々期にまた200万の黒字が出た場合は、残った赤字100万円と相殺して、所得金額は100万、ということになります。

この繰越期間が、個人は3年ですが、法人は9年です。
平成20年4月1日前に終了した事業年度で生じた欠損金は7年でしたが、平成23年12月改正により9年に延びました。
この点では法人の方が有利ということになりますね。

法人の場合はさらに平成28年度の税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額の繰越期間は10年となります。

(注)帳簿の保存期間について
平成13年4月1日前に開始した各事業年度において生じた欠損金額については5年、平成13年4月1日以後に開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度において生じた欠損金額については7年。なお、平成16年度税制改正により青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が7年とされたことに伴い、平成13年4月1日以後に開始した事業年度においては、従来保存期間が5年間とされていた帳簿書類については7年間に延長されています。また、平成23年12月税制改正により青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間が9年とされたことに伴い、平成20年4月1日以後に終了した事業年度においては、帳簿書類の保存期間が9年間に延長されました。また、平成27年度及び平成28年度税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する欠損金の生ずる事業年度においては、帳簿書類の保存期間が10年間に延長されています。

「法人成りした場合に、個人の赤字は繰り越せるの?」
残念ながらできません、ということになります。個人と法人は別人格だからです。
ただ、間接的に同様の効果を生じさせることはできなくはありませんが、個人と法人が絡む方法になり少々複雑ですから、専門家にご相談されることをお勧めします。
この場合も、個人の場合の3年の期間が9年に延長されるわけではないので注意が必要です。

■税率

所得税の場合は、累進課税といいまして、所得が増えるごとに税率がアップします。
法人の場合は所得税のように所得金額に応じて税率アップするのではなく、基本的には一律の税率です。
中小法人、つまり資本金が1億円以下の法人のことですが、その中小法人には、800万以下の部分は低い税率になるという軽減措置はありますが、所得に応じて税率がアップするということはありません。改正等で税率自体は変わりますが、このように一律であることには変わりありません。
ですので、個人事業で所得がアップして、税率が高くなったら法人に、という方法で、節税につなげるといったことが行われてきましたが、それに対する対策もなされてきましたので、今後も注意が必要です。
そのあたりのお話は前回をご参照ください。

法人と個人の違いⅡ 役員報酬・家族への給与 法人化=節税になる?
起業に関するお話として、また最近よくお受けするご質問でもありますことから、「法人と個人の違いについて」というテーマで何回かに分けてお伝えして...

■交際費の制限

個人なら交際費の制限はなしで、払った金額がそのまま経費になります。
法人の場合は、資本金の額と支払った交際費の額により、損金とできる額に制限があります。

平成25年度税制改正により、中小法人(資本金1億円以下の法人)については、限度額が800万円となり、その全額が損金(費用)として認められることとなりました。
改正前は、限度額600万円(定額控除限度額)までで、しかもそのうち10%は損金にはなりませんでした。この改正により、中小法人の場合は、交際費の制限についてはそれほど気にしなくてもよくなったと思われます。

さらに26年4月からはさらに緩和され、下記いずれかの選択適用できるようになりました。
①年間800万円を超える部分の金額は経費にならない
②飲食に要する費用の50%を経費とし、それ以外は経費とならない

年間の飲食費が1,700万円以上ある場合
1,700万円 × 50% = 850万円 で、800万円以上となるので、②を適用する方が有利ですね。

中小企業の場合は交際費が800万を超えるケースはほとんどないとは思われますが、超える場合はこの選択適用の②の方についても考慮に入れておくことが必要ですね。

「制限なしなら、家族旅行も交際費に入れていいの?」
いえいえ、制限なしというのはそういう意味ではなくて、あくまでも事業で、事業のために支出した交際費に限ります。個人の飲食代のすべてが交際費にできるわけではありません。
交際費というのは、税法の条文の言葉で言いますと、「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答、その他これらに類する行為のために支出するものをいう」となっています。

次回に続きます。